羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「仏の顔も、三度というでしょう」
ぎりりと刀の柄を握り締める。
歯を軋ませる力が強くなる。
犬歯の部分が鈍く痛んだ。
下唇に何かが当たる。
犬歯が伸びた、牙だ。
鬼になりかけている。
そう確信する。
だが、それでもいい。
人を殺すくらいなら自らの腹を斬れる。
だが彼らを―――俺の支えを奪おうとする“もの”を斬り捨てるのなら、話は別だ。
俺の人としての命がある事を願い、居場所をくれる人たちを守るための手段があるのなら、ここにいる妖を全滅させたっていい。
1匹の妖がひとつの尊い命であっても、妖の中のひとりが彼らの頭領であっても、その群れの中にいる鬼が、人であるなら本来、愛すべき家族である―――父であっても。
愚かな考えばかりが俺の頭に浮かんで止まない。
自分のために他者に傷をつけることはいけないことだと分かっている。
それなのに、とまらない。
「俺の周囲を殺す、ですか……。
―――やれるもんなら、やってみろよ。
その前に、ここで“駆除”してやる」
言いたい事を言ってやった。
妖たちの群れのあちこちから、畳に足を擦って後ずさりする音がする。
いま俺は、自分がどんな顔をしているのかわからない。
だが、きっと怖い顔をしているのだろう。
以前は眉をしかめただけで人に逃げられるほどだったのだ。
それが本気で怒っていればどんな顔か、俺だってなるたけ想像はしたくない。
妖も恐れる鬼の形相なのだろう。
“鬼”だけに、だ。