羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
空亡のいう事は全くもって正論だ。
間違ってはいない。
おそらく合理的な人間が聞いても、うんとうなづくだろう。
が。
「それでもです」
と、俺はかたくなに意見する。
「それでも人の世界で生きたいんです」
「自分のためにあえて先の暗い道をゆくか。
……愚かだな。
まるで“人”のようだ」
「愚かでも、いいんです」
俺は透徹した。
遺伝子汚染が起こっても、自分が死ぬほど後悔する事になっても構わない。
いつからか、俺なんてどうなってもいいという考えが吹き飛んでいた。
俺は俺の居場所に帰る。
俺を待っている人のところへ帰る。
帰って、そこにいる人たちと生きる。
実に身勝手で、実に自己中心的。
しかし俺は、初めてそれを強く望んだ。
下唇に当たっていた牙の先が、ふと引っ込んだ。
「―――俺は、人間ですから」