羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
俺の言葉のあとに、なにか言おうとするものはいなかった。
人にも妖にも、だ。
「鬼ではなく人として生きる道を選んだか」
空亡はしみじみと、問いかけるように呟いた。
そして九鬼の傍に近づき、「そういうことだそうだ」と九鬼の肩に手を置く。
「悪いが九鬼よ、お前の策は没案とさせてもらう。
なにしろ、鬼をもしのぐ半鬼が相手だ。
……ここで酒童嶺子に暴れられては、困るからな」
空亡は舌打ちする九鬼から離れると、次は妖の群れに向き直る。
「己らもだ。
死にたくなくば、ひとまずここは人間どもに譲れ」
「しかし、空亡どの……」
すぐさま反発する白澤だったが、空亡の厳しくなった表情を前に、はっと口を噤む。
「いい加減にせよ」
空亡は言った。
「そんなに九鬼の意見尊重するならば、いますぐそれを実行するがよい。
酒童嶺子を生かす件に反対の者もだ」
空亡は挑まんばかりに言い放つが、誰も動こうとはしない。
みな悔しげにこちらを睨みつつ、膝をついて諦めている。
「……たいへん、失礼いたした。
なにしろ妖には血の気の多いものが半数以上を占めておりましてな」