羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
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3階の自動販売機の横にある椅子に腰を掛け、酒童は早く来すぎてしまったことを後悔しながら、天野田と喋って時間をつぶした。
暇な時間が過ぎ、会議の15分前に会議室へ到着した刹那、酒童と天野田が真っ先に発見したのは、例の班長だった。
「お久しぶりです、鬼門班長」
酒童と天野田は深々と頭を下げる。
班長―――鬼門は艶やかな黒髪を揺らして、こちらを向いた。
イケメン、というよりも、女と見まごう美女の貌であった。
くっきりとした眼孔には、黒い鏡のような瞳がうまっている。
顔が小さく色白で、体格も他の男よりも至って華奢だ。
しかも、なめらかな黒髪は腰まで伸ばされ、1本の三つ編みにされている。
余談だが、実は酒童も、始めて班長を目にした頃は、てっきり彼を女隊員だと思い込んでいた。
……だがなんと、彼は今年で40代になる、大の男だ。
容姿からは、40代のオジサンとはまるで想像できないが、彼自身が、
「40代を甘く見るんじゃありませんよ」
と、雅な声で自称していたので、本当なのだろう。
それにしても、加齢臭もせず皺ひとつだってない班長を、中年の、しかも男性と思う人間がどこにいようか。