羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「ん……。
なんか起こしてごめんな」
力なく笑いかけた酒童に、陽頼が伏せ目で首を横に振る。
「ううん……」
言いつつも、陽頼の身体は左右に揺れ、意識朧げな様子である。
「ふあ」
吸い込まれそうになるほどの大口を開け、陽頼は再び布団に転がった。
上から掛け布団を羽織り、身じろぎをしてそれにくるまる。
「……」
酒童はそっと陽頼の頬を撫でてみた。
なにか理由があったわけではない。
ただ、陽頼を見ていると安心した。
「……ん、ああ、そうだ」
すると、一度は寝たと思われた陽頼が、うっすらと円な目を開いた。
「もう過ぎちゃったけど、はいこれ」
陽頼は枕の下から掌を覆うくらいの小袋を手に取り、それをそっと酒童に手渡した。
「なにこれ」
渡されたものに心当たりのない酒童は、ただ首を傾げるだけだった。
「24歳の誕生日、おめでと」
陽頼は笑った。
酒童はそんなことなど、すっかり忘れていた。
なにしろ都心での西洋妖怪事件以来はたてつづけに騒動の連続で、とても考えたこともなかった。
し、考えている余裕もなかった。
(そういや、そうだったか)
他人が勝手に決めた誕生日とはいえ、酒童は自分のことだというのにまるで関心がない。
(まてよ)
酒童はふと、この間のショッピングモールでの出来事を想起した。
知人の男性にプレゼントをしたいから。
そう言って陽頼は、手軽なアクセサリーショップで何かを買っていたのだ。
「もしかして、あの時の?」
あの時、とは抽象的な言葉だったが、陽頼は酒童の言いたい事がわかったのか、それともノリなのかで、こくん、とうなづいた。
「渡しそびれちゃったし、そのあとはうっかり忘れちゃってて」
暗闇の中でも、酒童には陽頼がぺろりと舌を出すのがはっきりと見える。
そっと袋のシールを剥がし、中を覗いてみる。
シンプルなペアリングだった。
大きいものと小さいものがふたつ、その中に収められていた。
陽頼は酒童の手にある袋から、その小さい方を取り出した。
「ちっちゃい方は私のね」
そう言いながら、陽頼は大きいほうのを手に取るや、酒童の掌にそれを置く。
「ふたつも……。
これ、高くなかったか?」
「大丈夫。
“庶民の味方宣言”って店頭で宣伝してたお店だし。
高校生でも買ってくし」
陽頼は自信満々の返答を返した。