羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



「妖の世界に、俺の居場所なんかねえから。
お前が嫌だって言ってくれなかったら、俺は自分に人間として生きる選択肢なんて与えなかっただろうさ」


 酒童は囁いた。

 壊れやすそうな体を、細心の注意をはらって腕に抱く。


「……無理してない?」


 陽頼が確かめるように聞いた。

 酒童は頼まれると無理なことでもしてしまうことを、陽頼は存じている。

だが今回ばかりは、無理をしているのではない。

 むしろ、無理でもやらなくてはならないのだ。


「無理とか、最近してねえから」


 一瞬、酒童の脳裏に、現代人をもしたような格好をした碧眼の鬼の顔がよぎる。

 無理でも、やるのだ。

 次に失敗すれば、死ぬのは自分だけでは済まされぬかもしれないのだから。


「んん……」


 陽頼は子供をあやすかのように、酒童の背を軽く叩いて返事をした。


 もう秋から冬に変わりつつあり、気温も低い日だったが、その夜は心なしか温かかった。






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