羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》







 天野田は言うと、公式がびっしりと書き写され、演習問題の回答で埋め尽くされたルーズリーフを、机の中から取り出した。



―――天野田が酒童に異様な執着心を持ったのは、この頃からだった。



 体育のマラソンでも、木やビルなどを飛び渡る訓練などでも、それ以来から天野田はずっと酒童の傍にいた。


それまで肉体的訓練などには全く力を入れておらず、良くも悪くもない成績だったというのに、天野田が酒童を追いかけるようになってからは、肉体訓練の成績が飛躍的に伸びた。


 酒童は肉体訓練に関しては抜群の才能を持っていた。

 そんな酒童を追いかけてきたのだから、天野田の成績が伸びるのも当たり前である。




 酒童くんの傍にいたい。
 




 天野田は称賛の声がほしいわけでもなく、ただ酒童の隣にいたい一心で、彼を追いかけた。

幸いにも、酒童は自身の物騒な面立ちと控えめな性格が祟り、あまり親しい友人はいなかった。


 だから天野田は四六時中、酒童を独り占めにできた。


 彼の友達は僕だけなんだ。


 そう思うと、天野田は、親に褒められること以上に、心が満たされた。


 1人で寮の夕飯を食べている酒童のところへ天野田がやってくると、彼はいつも木漏れ日がさしたような淡い笑顔を浮かべる。


 この笑顔は、自分だけに向けられたものなのだ、と。


 優越感ではない、悦びに近いものが溢れ出た。

 酒童も次第に、天野田に軽口を叩くようになり、天野田をたしなめることもあった。

 彼がだんだん、僕に馴れてきている。

 天野田はそう実感した。

まさか心からの友達を作ることが、こんなに良いものとは思いもしなかった。

 表面上の友達よりも、ずっといい。

 酒童となら、いつまでも一緒にいたいと思えた。









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