羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
少なくとも、酒童の知る限り西洋妖怪の体長は最大で約10メートルである。
バンニップのような蛇体の怪物は“全長”で10メートル越えであり、体長は5メートルばかりだ。
だからおそらく、過去最大のものでも15メートルがいいところだろう。
そう予想していたが、実際は違った。
「どれくらいデカイんだ?」
そう訊いた酒童に、天野田は平然とした面持ちで、
「ざっと体長20メートルあまり、ってとこ」
と、とんでもないことを口にした。
「20メートル!」
酒童は驚愕する。
そんなタワーのような化け物など、酒童は見たことも聞いたこともない。
「リザードマンは知っているね。
そいつの巨大バージョン、みたいな奴だ」
天野田はいった。
リザードマン、と聞いて酒童の頭に思い浮かぶのは、口に並んだ棘のような牙に、鋼鉄をも凌ぐ頑強な鱗に覆われた二足歩行のトカゲである。
「そのどでけえのが一体だけ、なんだな」
「呪法班の観測ではね。
まあ、そいつさえ倒せばいいだろう」
天野田は安堵させるような口調で言い募ると、刀を腰帯に刺して立ち上がる。
「……そろそろ行こうか」