羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
1
拠点の裏に、やたら古いタイプの携帯電話で会話する声がこだます。
「……ああ、そこそこな。
お前んとこは?」
《俺んことはさ、ほら、“にっしー”がいるとこよりも都会だし。
田舎者とか言われはしたな。
それに俺は、羅刹の資格もねえし、訓練所にも通ってねえ駆除未経験者だし》
「やっぱか」
《まあ俺らんとこは、確かに都会に比べりゃ蛮地みたいなもんかもしれねえよな。
村の女はごついし、男もごつい。
しかも西洋妖怪を喰って生きてきてるわけだ》
「都会だって蛮地さ。人間がいればな」
《ははっ。
そこんとこは、村を出てからも変わってねえな。
“にっしー”は》
「そんなこたあねえよ。
……そろそろ出動だから、俺行くわ」
《あいよ。まあ、頑張んな。
村一番の腕利き猟師》
“にっしー”―――朱尾がなにか返す前に、電話は切れた。
相手は同郷の猟師だった。
古めかしい携帯端末を装束のポケットにしまい、朱尾は二の腕までずれ下がってきた鉄砲の肩がけを背負いなおす。
中津村は古くから食用として西洋妖怪を狩り続けているが、最近では朱尾のように、羅刹の資格を持ちながら村で狩猟をおこなう者も増えてきている。
なにせ、羅刹の身体能力を駆使すれば、その力ほど狩りに有効なものはない。
(都会と田舎の違いか)
朱尾は肩がけ用のベルトを握りしめる。
ここだって、首都に比べれば田舎中の田舎であるが、それでも、生まれたころから野山を駆けまわってきたような朱尾たちからしてみれば、まだ都会である。