羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
2
ビルの上は風がよく当たるため、秋や冬は寒風が吹きつけて寒い。
幸運なことに、いまは風は吹いていなかったが、その代わりに、山からおりてきたものなのか街の地面は濃霧に包まれており、下はほとんど視界が遮られている。
「……ねみい」
ビルの上で待機する酒童の隣で、茨は大欠伸をして呟いた。
その言葉はいつぞやも聞いた覚えがあった。
「眠いのはわかるけどな、寝るんじゃないぞ」
「寝ませんよ、さすがに……」
茨は言いつつ、うとうととして目を擦っている。
茨の気持ちは酒童にも痛いほど分かった。
何しろ高校生や大学生の羅刹は、昼の学生生活と夜の駆除活動を両立してこなさなくてはならない。
特に夜遅くまで作業をした日の翌日には、昼の授業でぐっすりと寝込んでしまうことも多々あった。
酒童も居眠りで熟睡した経験は何度もある。
(けど、確かに眠い)
酒童も堪え切れず、小さく欠伸をした。
携帯端末で時間を確認してみると、既に深夜2時を過ぎている。
それなのに西洋妖怪は一向に姿を現さないし、例の巨大なリザードマンとやらも見当たらない。
「呪法班が、またミスったのかねえ」
天野田は退屈したのか、コンクリートの上に寝転んでそんなことを呟いている。
「でも、この前の人狼襲撃事件の事があって、呪法班もあれ以来は何度も確認で式占をしてるって聞きましたよ。
一度見て、最後にもう一回確認で見るって」
茨は二度目の大欠伸をかいて、その場に座り込む。