羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「……けど、このままだと、ほんとに何も出ないまま、夜が明けそうな気がします」
「そうそう、仮眠はとっておいた方がいいよ」
腕を枕に寝転び、適当な事をぬかす天野田を、酒童は軽く叩いて起こす。
「今寝たら、起きられなくなっちまうよ」
叩き起こされて、天野田は口をへの字に歪めて酒童を見上げる。
「わかったよ」
いやいやとばかりに天野田は体を起こす。
「そういや、トカゲの他にも呪法班はこの地区で西洋妖怪の気配を感じた、みたいなこと、鬼門班長が言ってましたね」
「ああ。
前まで少なかったってのに、急にたくさん出てくるってんだから……」
おかしなもんだ。
酒童は刀の鍔をしきりにいじる。
かちかちと、と小さな金属音が立つ。
「ん?」
その時、茨がふと顔を上げた。
「天野田さん、いま、何か言いま……」
「酒童さん!」
茨が天野田の方を向いてなにか言いかけたが、それは向かいのビルにいる榊の叫びによって遮られた。
「下を‼︎」
榊が真っ青になってビルの真下を指差す。
どうやら西洋妖怪が出たようだが、なにか様子がおかしい。
手慣れたはずの榊が西洋妖怪を相手に青ざめるなど、まずないはずだ。
酒童は何事かと思いつつ、下を見てみた。
見て、酒童も同じく青ざめた。
男の身長ほどもある巨大な棘が、透り抜けたふうに、霧に覆われたコンクリート張りの地面から突き出ていたのだ。