羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
昨夜、その地域の羅刹たちによる駆除活動が終了した直後の時刻。
都市部の歩道に設置された6台の監視カメラの映像に、通常であれば絶対にないのものが写っていたのであった。
人っ子ひとりと通らない、静寂に包まれた闇夜の歩道。
車道には車だって走ってはいない。
そんな場所を、合計で十数匹もの西洋妖怪がうろついていたのだ。
鬼火でもない奇妙な蛍光。
深紅の帽子をかぶった、斧を手にする老爺。
ひとりでに動く腐乱死体。
下半身が蛇の尾でできた女。
まるで西洋妖怪の大群が、絵巻にある《百鬼夜行》の真似事をしているようである。
とにかく、そんな見るからに凶暴そうな西洋妖怪が無数、監視カメラに写っていたのだ。
―――だが、本来であれば。
そもそもこんなところに、西洋妖怪の姿があるはずはないのだ。
この地域の羅刹が、既に出没した西洋妖怪を駆除したので、本当であれば、その日のうちは西洋妖怪はでてこない。
呪法班の式占は、いまや科学の力を凌ぐほどの絶対的な予報であり、彼らの予報は決して外れはしない。
どこになにが現れるのか。
どんな姿をしているのか。
どれくらい危険なのか。
日中は姿を消している西洋妖怪の気配を感知し、その情報を、自分たちが担当する羅刹の隊員たちに伝える。
それが呪法班だ。
その日、この地域の駆除活動を担う羅刹たちは、担当の呪法班員から、
「ここにはケンタウロスが4体、ミミックが3体です」
と情報を伝達されている。
他の班からの増援もあって、なんとか計7体は無事に駆除できたのだ。
西洋妖怪は、200年前より日本列島で大量発生した。
それでも、早急に結成された羅刹の存在によって、彼らは徐々に数を減らしてゆき、今では一夜に数体しか出てこなくなった。
昔は一晩中、ずっと駆除活動をしなければならず、死人も1人は出るほどの数が出没したそうだが。
しかしそんな時代でも、駆除しきった後で西洋妖怪が出てくるなどということはなかった。
だから、これは前代未聞の事件。
明らかなる異常事態なのだ。