羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「問題はない、とは?」
「人員不足の地区には、それなりの実力者を訓練所から派遣する」
それは、訓練所の教官を助っ人に出すということか。
それとも、まだ卒業していない、訓練中の未熟な羅刹を派遣するつもりか。
地区長の淡白な口調は、そのどちらでもあるように思わせた。
「仲津村(なかづむら)と各訓練所から、派遣隊員を送ろう。
それでいいか、鬼門」
地区長は、鬼門班長をひたと見据えた。
「仲津村?」
「あそこから派遣するのか」
ひそりとざわめく声があがる。
仲津村とは、この県と、隣の県境に横たわる山に作られた里で、今でも集落として人が住居しているという村である。
別に、その仲津村に伝説的な逸話があるわけではない。
どこにでもある、猟師と農家が入り混じった集落だ。
しかし、ざわめかれるのには、それ相応の理由があった。
少しばかり異色の、文化があるらしいのだ。
そこで、鬼門が再び口を切る。
「嬉しくはありますが、まさか未熟者を隊に派遣してくる、などということはありませんね」
「……やむなく訓練中の隊員を派遣することもあるかもしれない。
だがそのときは、しっかりと厳選された精鋭を送ることを約束する」
つまり悪く言ってしまえば、不完全な人材を送られてくるということも、ありえるということである。