羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
1
「酒童さん、風邪でもひいたんですか」
低めのビルの屋上で待機していた茨は、すっかり生気の抜けてしまった顔の酒童に問いかけた。
「ひいてねえよ」
「はあ……。
いや、なんだか、すごく生き生きしてない顔だなと思って……」
「お前がくる前に、いろいろあったんだよ」
がっくりと肩を落とし、酒童は床に腰を敷いていた。
本当に、面倒このうえない。
狩もしたことがないような、しかも訓練中の者を入隊させるなど。
地区長はよほど死人を出したいらしい。
聡明な方だと耳にしていたし、彼なりになにか考えがあるのだろうが、少なくとも、酒童には自殺させ行為にしか思えない。
「今日は一段と、奴らは数が少ないらしいですよ」
茨はしみじみと、さも平和な様子で言った。
「呪法班の式占では、今日ここに現れる西洋妖怪は2体。
いつもなら一晩に7体は出てくるのに、今日はラッキーですよ」