羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
(まあ、いいか)
どれだけ西洋妖怪どもが増殖しようとも、己のすることはただひとつ。
狩るだけ、だ。
百であろうと千であろうと、この刀で首を刎ねる。
それに部下の前で堂々としょげていては、頼りないとはいえ、上司の名が廃る。
「今日の的は固有の名称はない西洋妖怪らしいです」
茨が言った。
「ああ、たまにあるな。
特定の名前がついてねえ化け物って」
「一時期、日本じゃ『バンニップ』って名前で呼ばれてたみたいですけど、それは単眼症の馬に用いられたアダ名だったみたいだし」
「それで呪法班はなんて言ってた?」
「なんて、とは?」
「形とか、どんな奴かってこと」
「そりゃあ……。
呪法班が視る式占も、そう鮮明じゃないそうですからねえ。
でも一応、頭は鳥で、体は蛇か蚯蚓みたいだったらしいですよ」
頭が鳥、体が蛇とは、これはまた面妖な形状だ。
訓練時代、日本妖怪と西洋妖怪の違いについて教えられた時期がある。
日本妖怪は、器具に魂が憑依した付喪神や、人型がベースのもの、蟲や獣や魚、といった多様な種類があるが、
いづれも、『異種のものが混ざった妖』はほとんどいない。
狗は狗、鬼は鬼、といったふうである。
例えば、狗と土蜘蛛が混ざった怪物のようなものは、日本妖怪にはいない。
いや、鵺だとか濡れ女だとか、人魚とかいう例外もいるが、現代では、ああいったものは、
太古より日本列島に住み着いていた『帰化種』であるとされている。
だが、西洋妖怪は、どちらかと言えば異種混合した怪物が多い。
ミノタウロスといいケルピーといい、どっちがどっちだか分からない形の上、気性も荒いものが大半を占めている。
これが、西洋妖怪の面妖な点ともいえる。