羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



「そいつはまた、いつになく変わった奴だな。

でかいのか?」

「呪法班が視た場所の背景は、ちょうどビルがありました。

話によれば、ビルの2階ほどの高さもないらしいし、人間よりちょっと大きい程度じゃないですかね」


 茨の同級生には、呪法班の班員がいるらしく、その同級生からいつも情報を提供してもらうため、他の羅刹よりも早く情報を得ている。

しかし、酒童は戦いの直前に聞くので、どこの隊員よりも情報を得るのが遅い。


「ふうん。

やりやすくも、やりにくくもねえな」


 酒童は腕と背を存分に伸ばす。

痛いか痛くないか、という絶妙な刺激が背骨に走り、憂鬱な気分が僅かに晴れる。


「そういえば酒童さん」


 ふと我に返ったように、茨が無垢な少年の面持ちになった。


「童貞ってなんですか?」


 ぶっ、と。


 背後にいた班員のひとりが、ものの見事に噴き出す。


「おい、な、なに笑ってんだ」


 酒童がうろたえつつ、軽く牙を剥いた。


「す、すいません」


 すいません、などと言いつつも、坊主頭の班員、榊(さかき)は笑い転げんばかりに背を曲げ、身体を震わせている。

そんな彼の背を、眼鏡をかけた班員である桃山(ももやま)が、唇を上に歪めてさする。


 酒童は剣呑な目つきで、男面の女子班員、茨に向けた。


「なんでいきなり、そんなこと聞くんだよ」

「天野田さんがそう言ってましたたから。

『酒童くんは童貞だからねえ。

あんまり彼の前で、濃厚な色恋話はしない方がいいよ?』って」


 茨は年長の幼稚園児と同じくらいに、好奇心があるらしい。

良い事も悪い事も、お構いなしに問いかける。








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