羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「はい」
今度こそ臨戦体制に入った羅刹たちは、各々で愛刀に手をかける。
このビルは3階建てだ。
ビルと言うには、少しばかり低い。
日本の中枢都市にそびえ立つような高層ビルから落ちれば、羅刹とてひとたまりもないだろうが、
たかだか3階や4階建てのビルから飛び降りるくらいなら、造作もないのだ。
「準備できました」
榊が急かした。
だが、酒童は、あの蛇型の怪物が、このビルを通り過ぎるのを待っていた。
「奴らの眼前に降りるのは禁物だ。
あれがここを過ぎたら、一気に飛び降りて背後へ回れ」
「あい」
茨が腕を前足がわりにして、その時を待つ。
酒童も神経を、張り詰めんばかりに研ぎ澄ましていた。
真下にいる怪物どもがビルを過ぎるまで、あと数メートルだ。
あと少し。
あともう少し。
どこか遠くの方で、かしゃん、と金具が擦れる音が耳にはいるが、さして気にはしない。
そして、怪物の尾が、ビルを右から左へと通過した。
「よし、かか……」
かかれ、と酒童は言おうとした。
しかし、最後の「れ」は、隊員たちには聞こえなかった。
ずどんッ、ずどんッーーと。
地を揺るがすような、重みのある銃声が、虚空を斬り裂いた。