羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
2
「ん」
帰宅した酒童は、いつものちんまりとした布団の盛り上がりが、もぞもぞと動いているのに気がついた。
「すー、はー、すー、はー」
布団からは、やたらと雑で荒い息づかいが聞こえる。
何も言わずに布団に歩み寄ると、酒童はそっと布団の角をつまみ、持ち上げる。
すると、
「ぎゃあ!」
陽頼が限界まで目を剥き、小さく叫ぶ。
「あ、嶺子くん……」
白目にならんばかりだった陽頼は、なんとも弱った声音で体を起こした。
「よかったあー、嶺子くんで」
「俺じゃなかったらなんなんだよ、逆に」
問いかけた酒童に、陽頼は、「んー」と、なにやら後ろめたそうに唸った。
そしてこう告げた。
「あのね、見ちゃったの」
「なにを」
「心霊特集の番組……」
陽頼が言うには、ちょうど寝る前に、テレビで心霊現象の特集番組が放送されていたらしい。
幽霊とかいうものは西洋妖怪とは違って、白昼堂々と写真に写り込むわ、音もなく家の中に侵入するわで、毎年、心霊写真や映像のネタにされている。
昔は夜に撮影するといったこともあったようだが、今ではもちろんしない。
幽霊に憑依される前に、西洋妖怪の餌になってしまう。
特にやることもなくなったということで、陽頼は怖いもの見たさもあって、その番組を視聴してしまったのだそうだ。
その時は、これといった恐怖もなく就寝したものの、深夜にぱちりと目が覚めてしまった。
静寂の闇の中で目を閉じていたものの、例の番組が悪い意味で頭を離れず、
結局、掘った墓穴にはまり、怯えながら布団に潜っていたのだという。