羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「ん」
酒童が陽頼を布団に入れてやると、陽頼はさも御機嫌そうにすり寄ってきた。
「ありがと」
陽頼は酒童の鎖骨に額を付ける。
彼女とこうも戯れられる夜は、なかなか訪れない。
すこしイチャつきすぎかとは思いながらも、さっかくなので、酒童も陽頼の甘えに応じる事にした。
恋人としてというよりは、家族と接するように、酒童は陽頼の背中を軽く叩いてやる。
(近所のダックスに似てる)
良しか悪しか、酒童は陽頼から、昔に住んでいた家の近所で飼われていた、茶髪のダックスフンド犬を連想する。
そこで軽く抱き寄せると、ふと、妙な臭いが鼻を突いた。
火薬の臭いである。
驚愕して、酒童は陽頼のつむじを凝視した。
シャンプーらしき匂いに、微かな火薬の臭いがこびりついているのだ。
少なくとも、加齢臭でないことは確かだった。
「……陽頼?」
「んん?」
酒童を見上げる温容は、とても和やかだった。
しかし、物騒極まりない火薬の残り香が邪魔をしている。
酒童は、薄々嫌な予感を感じながら、
「寝る前に、花火でもしたのか?」
と、問う。
陽頼はしばらく、なんのこっちゃ、とばかりに、目をぱちくりと開閉していた。
「してないけど、どうかしたの?」
「なんか、火薬の臭いがする」