羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
酒童の言葉に陽頼は、うーん、と思案して、
「花火はしてないけど……火薬に身に覚えはあるかも」
と、顎に手を当てた。
存外にも、陽頼は火薬の臭いの原因を知っているらしかった。
「今日の9時くらい、だったかな。
変わった人がうちに来たの」
「変な人?」
「ご飯食べ終わって、お皿も洗って、暇になったとき。
すごい格好だったから覚えてる」
明らかに添い寝の体勢で、こんな話をしているのも変だが、とにかく酒童は、陽頼の証言に聞き入った。
「呼び鈴が鳴ってね。
『せんぱーい、いますかー?』って言うから、後輩かなって思って開けたの」
「うん」
「でも、開けたら全然知らない男の人がいたの。
相手も、私のこと知らない感じの、びっくりした顔してたし……」
ーーー『誰だお前』
それが、来訪者の男が発した、最初の言葉であったという。
奇妙な若者だった。
もうすぐ秋になり、夜は寒くなる時もあるというのに、その男は漆黒のタンクトップに、膝丈までのジーンズという真夏の格好だった。
さらに古びたジャンパーの袖を、首に巻きつけていた。
耳にかかる長めの黒髪は、何日も風呂に入っていないのかと思わすほどに乱れており、獰猛な獣のようでもあった。
中背で、脚も長くない。
まさに日本人といった体型だった。
しかし、鍛錬されているのか、その男の肩や二の腕、ふくらはぎなどは、筋肉でやや盛り上がっていた。
そんな屈強な肉体とは裏腹に、顔は童顔で、特に目が大きかったという。
なにより奇妙だったのは、その背中に背負われた、巨大なリュックサックとゴルフバッグだった。