羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
羅刹は車よりも早く疾走する。
なので、たった数メートル前の地点になど、5を数える間もなく到着するのだ。
それぞれが己の刀を携え、3体のトロールめがけて突進した。
トロールは頭は小ぶりだが、首が太く、胴が異様に大きい。
動作は遅鈍なのだろうが、剛力と棍棒を武器とする彼らには、素早さで対抗するのが効果的だ。
すかさず、獲物の気配に気づいたトロールの瞳が、ぬるりと動いた。
「2人1組で1体をやれ、茨は俺の補佐だ」
酒童の掛け声で、茨は酒童の脇につき、残りの2名はあごをしゃくった。
酒童の愛刀、『村雨丸(むらさめまる)』が鞘から引き抜かれる。
しゃりり、と金属音を立て、村雨丸が白銀の軌跡を描く。
野太い怒号をはなって襲いくるトロールを前に、酒童は強く地を蹴った。
軽やかに宙を舞うと、酒童はすぐ横の滑り台に飛び移る。
すかさず、眼前の獲物を捉えようと、棍棒を振り上げたトロールだったが、
そこで突然、トロールの巨体が傾いた。
どんずしん、と、トロールが倒れたために地響きが起こる。
木のように太い両足首を、茨が斬って落としたのである。
「酒童さん!」
四つん這いで追ってくる手負いのトロールを引きつけながら、茨が叫んだ。
倒れたトロールとは別に、あまりのトロール1体が、酒童に棍棒を振りかざしたからだ。
がつん、と、棍棒が滑り台に直撃する。
結界が施されていない建造物は、西洋妖怪の物理攻撃を防げないため、当然ながら壊れる。
しかし、潰れたのは遊具だけで、肝心の酒童の姿がない。
「ここだ」
低い声が、トロールの目鼻の先から発された。