羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》






 羅刹は車よりも早く疾走する。

なので、たった数メートル前の地点になど、5を数える間もなく到着するのだ。


 それぞれが己の刀を携え、3体のトロールめがけて突進した。


 トロールは頭は小ぶりだが、首が太く、胴が異様に大きい。

動作は遅鈍なのだろうが、剛力と棍棒を武器とする彼らには、素早さで対抗するのが効果的だ。


 すかさず、獲物の気配に気づいたトロールの瞳が、ぬるりと動いた。


「2人1組で1体をやれ、茨は俺の補佐だ」


 酒童の掛け声で、茨は酒童の脇につき、残りの2名はあごをしゃくった。


 酒童の愛刀、『村雨丸(むらさめまる)』が鞘から引き抜かれる。

しゃりり、と金属音を立て、村雨丸が白銀の軌跡を描く。


 野太い怒号をはなって襲いくるトロールを前に、酒童は強く地を蹴った。

軽やかに宙を舞うと、酒童はすぐ横の滑り台に飛び移る。

 すかさず、眼前の獲物を捉えようと、棍棒を振り上げたトロールだったが、

そこで突然、トロールの巨体が傾いた。

どんずしん、と、トロールが倒れたために地響きが起こる。


 木のように太い両足首を、茨が斬って落としたのである。


「酒童さん!」


 四つん這いで追ってくる手負いのトロールを引きつけながら、茨が叫んだ。

 倒れたトロールとは別に、あまりのトロール1体が、酒童に棍棒を振りかざしたからだ。


 がつん、と、棍棒が滑り台に直撃する。

 結界が施されていない建造物は、西洋妖怪の物理攻撃を防げないため、当然ながら壊れる。

しかし、潰れたのは遊具だけで、肝心の酒童の姿がない。


「ここだ」


 低い声が、トロールの目鼻の先から発された。


< 7 / 405 >

この作品をシェア

pagetop