羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
そんな話をひととおり交わすと、陽頼は「いってきまーす」と、学校にでも出向くかのように仕事場に赴いて行ったのだった。
そして、酒童は1人になった。
最初は小一時間ほど自主トレーニングを続けて、そこから軽く眠り、今度こそやることがなくなって、外の街に出歩きにきて、今に至る。
あまり都市部のほうには行きたくはなかった。
あそこはうるさくて、ちゃらついていて、いろいろな意味で物騒な人間がすこぶる多い。
しかしこちらの商店街は、騒がしくはあるものの、人情味に溢れていて、居心地がいい。
「おんや、嶺くん買い物かね?」
惣菜屋の元気な老婆が、曲がった腰に手を置いて声をかせてくる。
「いや、ぶらついてるだけ。
それよりもばあちゃん、杖使わなくて大丈夫なのか?
いつもは持ってるだろ」
酒童が懸念するが、老婆は「かっかっか」と乾いた笑声をあげた。
「うちゃあね、ここんとこ健康薬つかっとんのよ。
うちの主人がね、身体が元気になるって言っとんさったで、うちも試してみたら。
もう元気元気、杖なんぞ使わんでも、歩けるわぁ」
「そいつはすげぇ。
俺もあと60年したら使おうかな」
「まーった、なにを言っとんさるんかね。
あんたもそのうち、白髪が生えてくるでえ」
くかかか、と。
普段から饒舌な老婆が、さらに饒舌なになっている。