羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



 棍棒の上に、酒童がいた。

焦ったのか、トロールが酒童を落とそうと、勢いよく棍棒を上げる。


「ふんっ」


 力の勢いに乗って、酒童は上に跳ねた。

宙で体を捻り、トロールの背後に落下する。

 その一瞬のうちに、トロールのごつい頸が刎ねられた。

あたかもボールか何かのように、トロールの首は地を転がる。


 そして着地すると、休まず、茨が囮を務めるトロールの背に刃を突き立てる。

突き立てた刀を足掛けにして、酒童は茨を追って走るトロールの肩に乗った。


 水もたまらず、

斬(ザン)ッ、と血飛沫が舞った。


 回転しながら山なりに飛ぶ首を見届けると、酒童は、血に濡れた村雨丸を懐紙で拭きもせず、その刃を鞘に収めた。


「トロール駆除、完了しました」


 残りの2名からも声があがり、茨がガッツポーズをとった。


「見事な手さばきです、先輩がた!」

「お前の方は大丈夫だったか?茨」

「やあ。俺はただの囮なんで。
駆除に貢献できりゃ、良かったんすけど」

 
 残念そうに手を組む茨だが、実際、囮という役は駆除の次に命を張る。

だからそれなりに実力がなければ、到底こなせない役だ。


「酒童さん」


 隊員のひとりが、タッチ式の携帯端末を翳した。


「隣の地区に、ミノタウロスが4体。
応援の要請です」

「ここの地区は、もういないか?」

「呪法班(じゅほうはん)の連絡では、ここにはトロールのみだから、問題はないでしょう」


 呪法班は、治癒や結界の施工の他、星読みなどによる予知を担当する、羅刹の一味である。

陰陽師をルーツとする、こちらも人外なる異能の集団だ。

 彼らが言うのだから、間違いではないだろう。


「わかった、すぐに行くと伝えてくれ」

「了解」


 隊員がうなづくと、誰よりも早く、酒童が北の方向へと走狗のごとく走り出した。








< 8 / 405 >

この作品をシェア

pagetop