羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



そういえば彼は、入学したての頃から、その野獣のように堂々とした佇まいが、周囲の反感を買っていた。

当時の2年生や同級生と衝突することもしばしばあって、思い返せば、喧嘩沙汰も数えきれないほどあった。


「なあ、朱尾よ」


昔を想起した酒童は、この話とはまったく関係のないことを、根を掘るように訊いた。


「お前、俺らが卒業してから、なにもなかったか?」


これを訊いた頃には、肉だとか派遣だとかいう話は、忘却の彼方へやってしまった。

そういえば、考えてみればおかしい。

誰がどう見たって、態度や言葉遣いを除けば、戦闘員として放っておくには惜しい人材である。

それなのに、卒業時の成績は下から3番目だ。

少なくとも酒童が訓練生だった頃は、まだ首席卒業の可能性は充分にあった。

だとすれば、酒童たちが卒業して行ったあとに、彼の成績を落とす決定的な事件があったに違いない。


「お前、昔っから喧嘩っ早い性格だったろ。
俺らがいなくなったあとで、なにもなかったか?」


もし、彼が今まで以上に激しい喧嘩沙汰を起こしていたとすれば、それが原因で成績がガタ落ちしたのかもしれない。

酒童はそう踏んでいた。

すると朱尾は突如、

く、く、く、と引き笑いを浮かべた。


「あんたさ、もしかして勘がいいの?」


朱尾は、獣のような眼光を放っていた。


「ありましたよ」


朱尾の飄々とした語調に、酒童は絶句する。

彼の知る、朱尾仁志生ではなかった。

彼はこう、もっと、単純で猪突猛進で、素直で正直な男だ。

しかし眼前にいる彼は、別人のようであった。


「3年生の時だっけな。
同級生の奴らが、男女何人かで喧嘩売ってきたんすよ。
あんまりうざかったんで、全員ボコりました」




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