羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
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「では今夜も、おつかれさーんっ」
「うぇい!」
「うぇいっ‼」
年増の女隊員は、面倒見がよく男勝りで、しかもどの場面でも仕切り役を担ってくれる。
日の出が近くなった午前3時。
仁政(しんせい)地域に置かれた羅刹の拠点は大盛り上がりだった。
夕飯時には仕事に出かける羅刹の隊員たちのために、拠点では軽食と飲み物が振舞われる。
この仁政地域は、9つの地区から成っている。
羅刹のチームは、1組につき4人で、1つの地区を守る。
つまり1つの地区を、4人の隊員が守るということなので、
この拠点に集まっている羅刹の隊員は、総員36名だ。
しかし、たかだか軽食の時間であるはずなのに、羅刹の拠点は、まるで飲み会のように騒々しい。
缶ジュースと小さな握り飯を手に、隊員はみな、達成感に酔いしれている。
学校食堂のような作りの大部屋では、そんなむさ苦しく人情あふれる熱気が立ち込めていた。
そんなさなか、空腹のあまり握り飯にがっついていた茨の横に、優男風の青年がやってきた。
「横、すわっていいかい?」
「おお、天野田(あまのだ)さん」
茨は相手の姿を認識すると、「どぞ」と席をあけた。
天野田と呼ばれた優男風の青年は、癖のある黒髪を長い指に巻きつけながら、
「今日もお疲れだったね」
と、さりげなく、茨を労った。
「いつもより西洋妖怪の数が多かったからなあ」
「君の地区は、トロールだったっけ」
「おう。それでそのあと、ミノタウロスの駆除の増援に行ったんだ」
「そうか。
まだ若いのに、ご苦労様だねえ」
まだ若い、というものの、天野田もまだ24歳の若造である。