羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》


  2


「では今夜も、おつかれさーんっ」

「うぇい!」

「うぇいっ‼」


 年増の女隊員は、面倒見がよく男勝りで、しかもどの場面でも仕切り役を担ってくれる。


 日の出が近くなった午前3時。

 仁政(しんせい)地域に置かれた羅刹の拠点は大盛り上がりだった。


 夕飯時には仕事に出かける羅刹の隊員たちのために、拠点では軽食と飲み物が振舞われる。

 この仁政地域は、9つの地区から成っている。

羅刹のチームは、1組につき4人で、1つの地区を守る。

つまり1つの地区を、4人の隊員が守るということなので、
この拠点に集まっている羅刹の隊員は、総員36名だ。

 しかし、たかだか軽食の時間であるはずなのに、羅刹の拠点は、まるで飲み会のように騒々しい。

缶ジュースと小さな握り飯を手に、隊員はみな、達成感に酔いしれている。


 学校食堂のような作りの大部屋では、そんなむさ苦しく人情あふれる熱気が立ち込めていた。

 そんなさなか、空腹のあまり握り飯にがっついていた茨の横に、優男風の青年がやってきた。


「横、すわっていいかい?」

「おお、天野田(あまのだ)さん」


 茨は相手の姿を認識すると、「どぞ」と席をあけた。

天野田と呼ばれた優男風の青年は、癖のある黒髪を長い指に巻きつけながら、


「今日もお疲れだったね」


 と、さりげなく、茨を労った。


「いつもより西洋妖怪の数が多かったからなあ」

「君の地区は、トロールだったっけ」

「おう。それでそのあと、ミノタウロスの駆除の増援に行ったんだ」

「そうか。
まだ若いのに、ご苦労様だねえ」


 まだ若い、というものの、天野田もまだ24歳の若造である。






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