羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
そう罵る天野田のほうこそ、今日もまた一段と濃厚な、例の香りを身体に纏っている。
リア充というなら、そちらのほうではないだろうか。
「もしかして天野田、治療室に用でもあったか?」
酒童は治療室の純白のベッドから降り、靴を履く。
もし急ぎの用があるところを、自分の睡眠が邪魔をしてしまったのなら、彼がいつも以上に酒童に冷たくなる理由もうなづける。
しかし天野田は、首を横に振った。
「私も休みに来たんだよ」
「なんだお前もか」
天野田の香りや清々しげな風体から察するに、きっと今日も昼間から遊んで来たのだろうが、疲れているのなら寝かせてやるべきだ。
そう判断した酒童だったが、洗濯に出されているのかゴミにされて捨てられたのか、あと4つあるベッドのシーツが紛失している。
そろそろ冷えて来た頃だし、布団なしで仮眠をとっていたら、風邪を引きかねないだろう。
「俺んとこ、くる?」
布団があるのは、ちょうど酒童が寝転がっていた場所しかない。
自分は充分に寝たのだし、ここにとどまる必要もない。
どこかで刀を研ぐとして、ここは天野田に譲ろう。
……が、そんな酒童の親切心を、天野田はことごとく踏み躙った。
「は?なんで君の温もりが残る場所なんかで寝なきゃいけないわけ?
冗談は顔だけにしてくれない?
茨が見てたらどうするの?」
天野田が、汚いものを見んばかりの、ゲスの顔になって嘲笑う。
彼の悪口はとことん酷い。
酒童は「なんだよ」と頬を膨らまして悪態をついた。
「ああ、よくわかった。
じゃあ俺はもう少し寝るわ。
寒くなったって知らねえからな」
「そうだねえ。
寒くなったら、君のシーツを剥いで道連れにしてやる」
存分に毒を吐くと、天野田は向かいのベッドに体を倒した。