無題
彼女の元を訪れる
案の定、やる気のない怒ったような声を発していたが、素通りして彼女の胸に顔を埋める
生の匂いがする
温かくて、優しくて
俺は不意に泣きたくなった
こんな身体に産まれてきた自分も、それを良しと甘んじて人を殺している自分も、自分を殺せない自分も、彼女さえ殺してしまいたいと願う自分も
全部が厭になって
だが彼女の前では、高々それだけのことだろうと言える自分がいる
黙って胸を貸してくれていた彼女はいつだって無表情で、何処を見据えているか分からない
彼女は何も言わない俺にいつだって同情もしないし興味もない
そのまま彼女を押し倒していつもの情事が始まる
はた、と目と目が逢った
深く暗い青い瞳が其処にあった
青さに所々ハイライトが入って、それが星を映し出した夜の黒海のように見えた
瞳がブラックホールのように、俺を吸い込もうとしているようで綺麗だと思った
事務的で激しさを感じさせないセックスも終わり、夢から醒めなければならない
いつだって心残りを感じながら彼女の元を離れる
彼女が呼び止めてくれないかと期待したり、呼び止めない彼女が好きだったり
俺は、きっと、明日も明後日も彼女を抱くだろう