夢幻の魔術師ゲン
 しかし、どうやらこちらに気付いている様子はない。

 男が燭台を持っていないことが幸いしたようだ。

 ところが、すぐ近くまで来た男の顔がはっきり見えた瞬間、ステラは目を見開いた。

 あの偉そうな顔、偉そうな雰囲気、偉そうな歩き方は、昼間失礼極まりないセリフを吐いた奴ではないか。

(ラ、ライル……?)

 少年は周りに誰もいないことを確認しているのか、警戒して辺りを見回している。

 見られたら困るようなことでもしているのだろうか。

 はっきり言って怪しいことこの上ない。

 そして、結局ステラに気がつかぬまま、ライルは敷地内の外へと向かって行った。

(あいつ……こんな真夜中にどこに行くつもりよ)

 ライルはまだ学生の身分であることをステラは叔父から聞いていた。

 ならば、働きにどこかに行くというわけでもないだろう。

 となれば、選択肢は限られてくる。

 学生同士でどこかに遊びに行くつもりなのか、それとも……。

(まさか、危ないことに手を染めているんじゃないでしょうね)

 そう思いたくはないが、どのみちこんな夜中にどこかへ出歩くなど、あまり感心できることではない。

 意を決したステラは長椅子に燭台をそっと置く。

 気配を殺してなるべく足音を立てないように、好奇心旺盛な少女はこっそり少年の後をついて行った。
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