夢幻の魔術師ゲン

「だめえぇええっ」

　これでもかというほどのステラの絶叫が辺り一面に響き渡った。
　
　それに驚いた男たちは何事かと、酒場の出入り口の扉を勢いよく開ける。

　同時に、ステラは男たちの間をすり抜け一目散にライルの元へと向かうと、その腕を引いて立ち上がらせた。

　当然、驚き目を見開いたのはライルである。

「なっ……お前っ……」

「なにぼさっとしてるのよ！　早く逃げるわよ！」

　強引にライルの腕を引きながら、ステラは男たちを押しのけ酒場を出る。

　だが、そう易々と見逃すほど彼らも甘くない。

「くそっ……見られた！　おい、あいつらを捕まえろ！」

　男たちの怒声が響き、ナイフを持った男三人がステラたちを追いかける。

　凶器を持つあの男たちに捕まれば、口封じに殺される可能性もある。

　怖くないと言えば嘘になる。

　足が震えて、つまづいて、転んでしまいそうなくらいに。

　だから、ただ必死に走り続けた。

「まだ追ってくる……っ。なんてしつこいのよ、もう！」

「当たり前だ！　あいつら下っ端だがマフィアなんだぞ！　ナイフを持ってるのを見ただろ！　お前、なんでこんな真似をしたんだよ！」

「うるさいわね！　あんたが脅されているところを見ちゃったんだから仕方ないでしょ！　助けてあげたこっちの身にもなってよ！」

「助けただぁっ？　言っておくが俺は殺されそうになってなんか……っ」

「現に逃げてるじゃない！　……二人で逃げると逆に目立つから、二手に分かれるわよ。いいっ！？」

「あ、ああ……。けどお前……っ」

「大丈夫。これでも近所で一番足が速かったんだから。……あとでたっぷり事情を聞かせてもらうからね。ちゃんと逃げ切るのよ！」

　精一杯言うだけ言うと、ステラとライルは街路の曲がり角にて二手に分かれた。

　追手は三人。

　目標が二手に分かれたことで、追う側としては多少なりとも困惑するはずだ。

　と、信じたい。

　ところが、ステラの予想は見事に外れ、あろうことか三人中三人が、目を皿にしながらステラを追いかけてくるではないか。

（いやーーっ。なんで私だけを追いかけるのよ！）

　走るうちに、やがて街灯が少ない道をステラは駆けるが、靴擦れを起こした足が走るたびに軋むように悲鳴を上げ、次第に呼吸も乱れていく。