夢幻の魔術師ゲン
現れたのは、この屋敷に住み込みで働くメイドの一人、ブロンド髪の少女だった。
十数人いる使用人たちの名前と顔をすべて覚えていないが、この年若い少女は印象深かった。
直接年齢を聞いたわけではないが、背格好や顔立ちから考えると、どうみても十二、三歳くらいだろう。
にもかかわらず、この少女はメイドとしての仕事をテキパキこなし、言葉遣いや振る舞いもあまりにも丁寧で上品なので、昔から行動が男勝りだと言われてきたステラにとって、淑女たる見本にしか見えないのだ。
「おはようございます、ステラ様。昨晩はよく眠られましたか?」
「お……おはよう。ええ、おかげさまで眠れたわ。えっと……ベル、だっけ?」
名を口にした瞬間、少女は目を見開いて「まあ」と口元に手を当てる。
「わたくしのような者を覚えてくれていらっしゃるなんて……光栄に存じます、ステラ様」
「へっ? 光栄? いやいやいや。そんなにかしこまられても困るんだけど……。ていうか、様づけしなくてもいいからね。私、身分が高いわけでもないから……」
「いいえ。ステラ様は旦那様の血縁者ですもの。存外に扱うことなど許されませんわ」
「はぁ~……存外……」
叔父は貴族ではないが資産家で、この辺りではどうやら有名な人物らしい。
故に様づけされてもおかしくないのかもしれないが、ステラは血縁者とはいえ、平民育ちの娘に過ぎない。
様づけなどという慣れない態度で接せられると、何とも言えない罪悪感に似た感情を抱いてしまう。
「ここにお召し物を置いておきます。お着替えを済まされましたら、食堂までおいでくださいませ。では……」
「あっ……ちょっと待って」
「はい?」
用を済ませそのまま立ち去ろうとするベルを呼び止めると、彼女は愛想よく振り向いた。
気になって仕方がないことを聞くために、ステラは確認するべく訪ねてみる。
十数人いる使用人たちの名前と顔をすべて覚えていないが、この年若い少女は印象深かった。
直接年齢を聞いたわけではないが、背格好や顔立ちから考えると、どうみても十二、三歳くらいだろう。
にもかかわらず、この少女はメイドとしての仕事をテキパキこなし、言葉遣いや振る舞いもあまりにも丁寧で上品なので、昔から行動が男勝りだと言われてきたステラにとって、淑女たる見本にしか見えないのだ。
「おはようございます、ステラ様。昨晩はよく眠られましたか?」
「お……おはよう。ええ、おかげさまで眠れたわ。えっと……ベル、だっけ?」
名を口にした瞬間、少女は目を見開いて「まあ」と口元に手を当てる。
「わたくしのような者を覚えてくれていらっしゃるなんて……光栄に存じます、ステラ様」
「へっ? 光栄? いやいやいや。そんなにかしこまられても困るんだけど……。ていうか、様づけしなくてもいいからね。私、身分が高いわけでもないから……」
「いいえ。ステラ様は旦那様の血縁者ですもの。存外に扱うことなど許されませんわ」
「はぁ~……存外……」
叔父は貴族ではないが資産家で、この辺りではどうやら有名な人物らしい。
故に様づけされてもおかしくないのかもしれないが、ステラは血縁者とはいえ、平民育ちの娘に過ぎない。
様づけなどという慣れない態度で接せられると、何とも言えない罪悪感に似た感情を抱いてしまう。
「ここにお召し物を置いておきます。お着替えを済まされましたら、食堂までおいでくださいませ。では……」
「あっ……ちょっと待って」
「はい?」
用を済ませそのまま立ち去ろうとするベルを呼び止めると、彼女は愛想よく振り向いた。
気になって仕方がないことを聞くために、ステラは確認するべく訪ねてみる。