夢幻の魔術師ゲン
「ステラちゃん……どうしたんだい?」

「え……」

 スープやパン、チーズにサラダなど色とりどりの料理が大理石の高価な食卓に並べられ、それを囲む皆が上品に食事を進める中で、一人何やら考え込んだまま食事がなかなか進まないステラに、叔父は心配そうに話しかけた。

 食卓を囲む者は現在五人。

 ステラと叔父、叔父の妻、そして叔父の両親である。

 だが、その中にライルの姿はない。

 彼には姉が一人、兄が一人いると聞いているが、現在この屋敷に住んでいるのはライルだけ。

 当然、朝食のこの時間帯には食堂に来るはずなのではないだろうか。

 昨夜の出来事が頭に浮かぶ。

 彼は、あれから無事屋敷に辿り着いたのだろうか。

「さっきからあまり食べていないようだけれど……大丈夫かい? 何か心配事でもあるのだろうか」

「いえ、そういうわけでは……。あの、ライルの姿が見えないようですけど……」

 おそるおそる尋ねると、叔父は「ああ」と困ったように息を吐いた。

「いつものことだよ。あの子は我々と食事をとらないんだ。困ったものさ」

「そう……なんですか。なら、まだ寝ているとか」

「いや、それはないよ。今日もあの子はがっこうがあるからね。部屋でごそごそと準備をしていたよ」

 では、あのチンピラたちに捕まったわけではないのだ。

 叔父の言葉にステラは安堵の息を漏らした。

 しかし、あのことを叔父に話すべきなのだろうか。

 深夜に無断外出したのはステラも同様だが、そんなことよりも、ライルが昨夜しでかしたことは犯罪なのだ。

 どうやら今のところ叔父は気づいていないようだが、それも時間の問題だろう。

 ライルが叔父の私物や財産を盗んでマフィアの下っぱに手渡した。

 それを言うのは簡単だが、それでは何の解決にもならないとステラは思っていた。

 ライルに直接会って話がしたい。
< 22 / 28 >

この作品をシェア

pagetop