夢幻の魔術師ゲン
 小声で話しているつもりなのだろうが、二人の話声はステラの耳によく届いた。

 話の内容から察するにどうやらそれはオカルト系統のことで、彼らの話を聞くうちに、ステラの脳裏に昨晩の光景が甦る。

 暗い路上で、ひたひたと歩きながらステラの前に現れた血みどろの両親。

 いや、両親という名の化け物は、毎晩夢の中に現れたすがたそのものだった。

 それを見たのはステラだけではない。

 あのチンピラたちもはっきりあれを見て、叫び声をあげて逃げ出したのだ。

 しかし、この夫婦たちの言う叫び声が聞こえたというのは、もしかしたらそのチンピラたちの絶叫かもしれないとステラは思った。

 近くに屋敷らしきものは見当たらなかったが、何せあの辺りは暗かったし、彼らから逃げるのに必死で周りの景色などじっくり見る暇もなかったのだ。

 毎晩見てはうなされる悪夢以上に恐怖を感じたあの戦慄。

 あの化け物に、殺されるのだと思った。

 あるいは、食われるのだろうと思った。

 けれど、恐怖のどん底に陥った自分を助けてくれたのはあの少年。

 彼の顔が思い浮かぶ。

 オカルトなどこれまで信じていなかったが、昨晩の奇怪な現象といい、あの少年の不思議な力といい、常識を超えるものがグローナに来てから起こっている。

 ステラは思う。

 あの化け物は、少年は、一体何者なのだろうか。

 考え込んでいると、男が腕を組みながら顎鬚をさすって口を開いた。

「おれは生まれた時からここに住んでいるが……子どものころ、一度だけあの屋敷に入ったことがあるんだ」

「ええ? 本当かい? そんな話初めて聞いたよ。……それで、どうだったんだい?」

「……死ぬかと思った」

 ぽつりとつぶやいた男に、女もステラも目を丸くする。

 聞き耳を立てていると、昔の話だと言うのに男は顔面蒼白となって話を続けた。
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