夢幻の魔術師ゲン
 心配の眼差しで見つめる叔父は、申し訳なさそうに言った。

 その言葉に静かに目を伏せたステラは、軽く首を横にふる。

「……いいえ。むしろ、感謝しています。おじさまが声をかけてくれたから、私は立ち直ることができたんです。家を引き払ったから戻れないけど、後悔はしていません」

「そうか……。それを聞いて少し安心したよ。なら改めて……これからよろしくね、ステラちゃん」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 すると、どこからともなく鐘楼の鐘の音がグローナの街中に響き渡った。

 釣り鐘方型の鐘の音色が、体全体に心地よく浸透する。

 言葉で表現しようのない心がなごむその音色に、ステラは思わず馬車の窓から身を乗り出した。

「うわぁ。すっごくいい音色。おじさまは毎日この音を聞いているんですね」

「そうだよ。気に入ってくれたようだね。……お、そろそろ家に着く頃だ。屋敷についたらゆっくり体を休めるといいよ」

「ありがとうございます」

 駅を出発してから数十分後。

 やがて馬車は蔓薔薇が巻かれた門をくぐると、叔父の屋敷の敷地内に入っていったが、そこに広がる景色を見た瞬間、ステラは目を奪われた。

 整形式の巨大な庭園は多種多様の花が植えられ、どれも見事な花を咲かせている。

 花の香りが辺り一面に広がり、庭に足を踏み入れた者を魅了させる造りだった。

 その一番奥には個人の家とはとても思えないようなレンガ造りの巨大な屋敷がそびえ立っている。

「うっ……わあ。す、すごい……」

(おじさまが資産家だというのは知っていたけれど、まさかこれほどだなんて……)

 従者付きの馬車を使わす時点である程度の予想はしていたが、まさか屋敷が、庭園が、これほどのものだとは思わなかったのだ。

 屋敷の大きさだけでも、ステラが住んでいた家と比べると軽く5倍はある。

「ここが我が家だ。君は今日から私の家族。遠慮をする必要はない。さあ、上がりたまえ」

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