嫌われたがりと天邪鬼 完
那智が異性に人気があるのは知っているし、あの容姿だ、仕方ない。ただあの厄介さが災いしてそれが表面化しないだけである。
そのことに対してわたしは別に何とも思わない。…思っちゃいけない、と自分で思い込む。
だってわたしはただの幼馴染だ。
「本当にねー…もう少しあの性格が中和されればいいと思うんだけど」
「……それは無理じゃない?」
「何、また相川に何かされたの?」
人の不幸は蜜の味、とばかりに目を輝かせ問うてくる彼女に苦笑しつつ、さてこれは話していいのだろうか、と少しだけ考えた。
那智にお茶をぶっかけられた話だ。
それを言えば、無駄に情報通である彼女はこの話をすぐに広げるに違いなくて、だからこその迷いだった。久世くんは何かを感じ取ったらしくさりげなく彼女に別の話題を振ろうとしている。
那智は話を広められたところで、そんなことは全く気にしないだろう。それでまた自分が嫌われたり避けられたりする原因になるというのに、「むしろラッキーだよ」なんて言って笑うに違いない。だけど言うのは良くない、と。
――判っていたのに、口はいつの間にか動いていた。
「…うん、まあ、お茶をぶっかけられた、くらい?」
彼女は「げっ」と眉を顰め、「サイテー」と非難の視線を那智へと向ける。久世くんでさえも「それは…」と眉間にしわを寄せた。
那智はそんなことなど露知らず、やっぱり余裕そうに読書を続行していて。…言ってしまった、と口の中に苦いものが広がるような、そんな感覚。彼を縛り付けようとする身勝手なエゴ。
モヤモヤと黒いものがどんどんと大きくなり広がっていく。
不快感しか与えないのに掴みどころがないこの感情の名前は何といったか。