嫌われたがりと天邪鬼 完
「うっわー、相川ってほんっと最低な男だね。そんな奴と幼馴染とか、美由紀可哀想。ってか、縁切っちゃえばいいのに。そんな律儀に付き合ってやることないんじゃん?」
「あー…いや、」
言葉の続きが見つからなかった。
彼女は本当にわたしのことを思って言ってくれているのだと判っているからこそ、尚更。
那智がそういう行動をするのは本当。そしてそれが最低なのも、本当。
でもそれらには全てが意味があるわけで。
好かれることに怯える那智は、本当は『好かれることそれ自体』に怯えているわけでは、ない。
『一回好かれてから嫌われる』ことに怯えているんだ。
だからこそ、彼は最低な行いを繰り返す。わたしが彼にそういうことをされても、嫌いだと言われつつも、ちゃんとわたしが愛想を尽かさずに付き合ってくれるか、それを試しているというだけのこと。
だからこそ余計に厄介なのかもしれないけれど。
――でもそれを知らなければ、那智の行動はただの『最低男』のそれだ。
ただ、その事実を他の人には言いたくなかった。知ってほしくなかった。わたしと那智の間だけでいい。
でもそれを隠せば那智の印象はどんどんと悪くなっていく。それが少しだけ、本当に少しだけわたしに安心感を与えることが――苦しくて。
嗚呼、と息を吐く。ようやくこの感情の名前を思い出した。
モヤモヤとした黒いこの感情の名前は――罪悪感、だ。
「…っと、そろそろ授業始まるじゃん。じゃ、またね美由紀」
「あ、ほんとだ。じゃあ俺も戻るわ、じゃあな」
「あー…うん」
さっさと自分の席へと戻っていく親友と久世くんの背中にひらひらと、見えないから意味もないのに手を振った。
机から教科書やらノートやらを引っ張りだし、頬杖をつく。
――いつもは彼女と一緒に帰るのに、その日だけは、図書室で勉強していくだなんて嘘をついて、一人居残った。