嫌われたがりと天邪鬼 完


 ***



少しも音のしないこの場の空気は慣れないわたしには多少重苦しい。机にべたっと上半身を預けた状態のまま、iphneを特に意味もなく弄る。
誰からも連絡は着ていないし、ネットも一応ざっと目を通してはみたものの、興味をそそられるものは何もなかった。


――つまらない。


別に彼女を避けるためだけに図書室に来たのだからもう帰ってもいいのだけれど、一回座ってしまったらもう腰を上げるのも面倒になってしまった。

図書室にいるのだから本を読めばどうだという意見もあるかもしれないが、残念、わたしは数行読んだだけで眠くなってしまうくらい本が苦手だ。
正直読書家な人たちの気が知れない、と常日頃こっそり思っているほど。

どうしようかなあ、なんてため息をつく。



「だらしないよ、女の子」



…すると、上から声が降ってくる。それはよく知った声だった。
顔を上げずに視線だけで見上げれば、思った通りそこにいたのは那智だった。

ずれたらしい黒ぶち眼鏡を中指でずり上げて、彼はわたしを見下ろしている。

片手には三冊程度分厚い本を抱えていて、こりゃまた物好きな…と呆れた視線を送れば、奴はさも当然といった表情でわたしの隣の椅子に腰掛けた。



「…女の子、って。女の子なのにだらしないってこと?」

「あー、うん、まあね」

「何それ、男女差別じゃないの」



自分でも八つ当たりだと判っているし、そもそも自分が悪いのだから那智に対して苛々するのは違うと理解してはいるものの、言葉は強くなった。

那智は「機嫌悪いね」と困ったように少し笑う。
普段は学校では見せないはずのその表情ですら今のわたしには苛立ちの種となる。

――どうしてコイツなんだろう。確かにルックスはいいけれど、性格の面で言ったらここまで面倒な奴も中々いないというのに。

自分の趣味の悪さに益々苛々する。悪循環だ。

< 14 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop