嫌われたがりと天邪鬼 完
別に、とふいっと顔を逸らせば、那智のため息が聞こえた。
「…美由紀」
「何」
「僕、何かしたっけ?」
「別に、今日はまだ何もされてないけど?」
「まだ、って辺りに悪意を感じるんだけど。…でも美由紀、普段はそんなに感情の揺れ幅大きくないでしょ?僕以外のことでは」
その台詞にカッと顔が熱くなった。…特に意味があって発された言葉でないことは判ってる、それでも。
僕の以外のことでは、と指摘された。それを那智自身に見抜かれていた。
それがどうしようもなく、何故か恥辱的で。
そんなことはない、と言ってやろうと勢い良く身体を起こして那智の方を向くと、彼は何か悪戯を企んでいるようなキラキラした目をしていた。
…あ、ヤバい。長年の勘がそう告げたけれどそれは時既に遅し。
「、っ!?」
気付いた時には、口内に那智の男にしては華奢な指が侵入していた。
それはそっとわたしの口内を確かめるように歯茎などを一通り撫でるようにして触れていく。妙に動きが艶めかしく感じた。
しばらくの間パニック状態で反応出来ず、ハッと気付いてそれを思い切り噛んでやろうとしたそのほんの一瞬前に指は口内から出て行った。
そして、口の中に何か球状のものが残っていると気付き舌でその何かを転がしてみれば、とてつもなく不快な清涼感。
…大嫌いなミントのキャンディだった。
「っ、何すんのよ那智っ」
「シー、図書室ではお静かに、でしょ?」
わたしの唾液で微妙に濡れ光っている指をティッシュで拭いた那智は、「してやったり」とばかりの笑みを浮かべてわたしにそう指摘する。
どの口がそれを、とは思ったものの、言っている内容は間違ってはいないので、声を低くしてもう一度「何てことしてくれてンのよ」と睨みつけた。
「わたしがミント嫌いって知ってるでしょ?…おまけに口に指突っ込まれるなんて滅多に出来るモンじゃない貴重な体験までさせて下さって」