嫌われたがりと天邪鬼 完



噛み付くような勢いで皮肉れば、「いいじゃん、滅多に出来ないんでしょ?」としれっと那智は顔を背けた。
…今ならコイツを殴っても許される気がする、とわたしは拳を握った。

けれど静寂が占めるこの場所で殴りかかるのはさすがに躊躇われ、理性で何とかその衝動を抑えた。代わりに大嫌いなミントのキャンディをがりがりと噛み砕いて飲み込む。
口内からはその存在は消えたものの、まるで嫌がらせのようにスースーと不快な清涼感は残っていた。まるで痕を残そうとするかのように。

ほんとにコイツは性格が悪い。



「…っていうか、図書室では飲食禁止でしょ」

「飲食したのは美由紀でしょ?」

「…さしものわたしもいい加減キレるわよ」

「良かった」

「は?」



何が良かっただ、と思い切り睨みつければ、レンズ越しに綺麗なアーモンド形を描いたその瞳は優しげに細められる。

近くの少しだけ開けられた窓から風が入り込み、那智の柔らかそうな、茶色い猫っ毛を揺らす。
普段はよく判らないフェロモンだだ流しで妖しい雰囲気をまとっているくせして、そんな彼はどこかあどけなく映った。

見慣れないそんな彼に多少戸惑って視線を逸らせば、彼はポツリと「美由紀がいつも通りに戻った」と零す。



「やっぱり、美由紀はそうやって怒っているのが一番らしいよ。あんな落ち込んだのを誤魔化そうとするみたいな怒り方似合わない」

「…は?」

「うん、いつも通りの美由紀だ」



思わずまた那智に視線を戻せば、満足気な彼。
――つまり、今の嫌がらせは、

落ち込んだわたしを励まそうとした、ってこと、なの?

あまりにも不器用なそれに思わず吹き出した。何、と那智は少しだけ不満気な声を出す。



「だってアンタ…ばっかじゃないの」



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