嫌われたがりと天邪鬼 完
思わず吹き出せば、むっとした表情の那智が、がしっとわたしの頭を掴み、机に押し付ける。特別力は入れていないんだろうけれど、抗えない程度には強い。それは男と女の差なのだろか。
これは照れ隠しなんだろうとわたしは特に抵抗もせず、そのまま力が抜けていく那智の手のひらの熱を感じたまま、そっと目を閉じた。
…目を覚ましたのは、おそらく優に一時間は経ったであろう頃。
固い机の上に上半身を預けた、身体に多少無理のある体勢のまま眠ってしまったせいか、異様に肩が凝っていた。
それを解そうと首を二、三度横に曲げれば、骨が折れるのではないかと思ってしまうほどの大きな音が鳴った。
それで多少スッキリし、そっと隣を見遣れば那智は真剣な表情で本の世界に入り込んでいて。
――綺麗な顔をしている、とその横顔を眺めて改めて思った。
肌とかわたしよりも肌理が細かいのではないか。腹立つ。引っ掻いて痕を残してやりたい。
そんなことを思いながら観賞していれば、那智がチラリと視線をこちらに向ける。意味もなくドキリと心臓が飛び跳ねた。
「起きた?」
「ん…起きた」
「そっか」
それだけ言うと、那智は読んでいた本にわたしが昔誕生日にあげた栞を挟み込むとパタンと閉じた。そしてそれを鞄の中に仕舞い込む。「何してんの、早くしなよ」
…要するにわたしが起きるのを待っていてくれたらしい。判り難い奴、と内心で呟きつつ、つい緩んでしまう口元を引き締めた。