嫌われたがりと天邪鬼 完
殆ど中身なんて入っていない軽い鞄をイマドキの女子高生らしく肩に掛ければ、那智はそれを見て顔をしかめる。
要するに、肩紐…というのか、その部分を片方しか掛けていないスタイルなのだけれど。
「美由紀、それだらしないよ」
「あーあーあー、煩いな、那智はわたしのお母さんなの?」
「せめてお父さんって言ってよ」
「引っかかるとこそこなの?」
そんな馬鹿みたいな会話をしつつ図書室を出れば、那智が無言でわたしにいちごみるくのキャンディを渡す。
…どうやらミントのキャンディのお詫び、らしい。何も言わなかったけれど、長年の付き合いからその程度のことは察せられた。
最初からこれを渡してくれればいいのにと思いつつ、わたしはそれを口に含む。甘い味。そして表情をほころばせる。
今ならばどんなにだらしなく緩んだ表情をしていても、大好物を食べているせいだと主張出来るからだ。
それをコロコロと舌で転がしていると、じっとこちらを見つめる那智の視線に気付いた。
何だと首を傾げれば、そっと右手を彼の左手に包まれ、指を絡められる。所謂恋人繋ぎというもの。
いきなり何だと眉を寄せて彼を見上げれば、彼はやたらと満足そうな表情をしている。
「やっぱ女の子の手って柔らかいよね」
「それは暗に太っていると言いたいの」
「いや、そうじゃなくてさあ。やっぱり男の筋張った手とは違うな、と」
「まあそりゃあね。作りがまずもって違うわけだし」
「だから握っていると気持いいよね」
「それが味わいたくて握ったの?」
「うん。女の子の手握るなんて久し振り」
機嫌のいい那智からさらりと出たその台詞に、彼ではなくわたしの方が過剰に反応してしまった。
…久し振り。それがいつ以来だか、知ってしまっているからだ。
けれど那智はそんなわたしの反応に気付かなかったように、さっきからやわやわとわたしの手を握って柔らかさを確かめている。
「美由紀の手の方が馴染むなあ」なんて呟いたその台詞も、わたしと誰を較べているのか判ってしまった。
じわじわと切なさが胸を侵食していく。思わずぎゅっと手に力を込めた。