嫌われたがりと天邪鬼 完
浮かぶのは、あの日のまだ幼い彼の背中。
嗚咽を僅かに漏らして震える那智のその背に触れることは出来なかった。
ぎゅっと唇を噛み締め、そっと触れるか触れないかの距離で背中合わせにしゃがみ込んで。
掛けるべき言葉も判らずに自分も静かに泣いた。
わたしではない女の子の名前を呼ぶ那智の声に、何度耳を塞ぎたくなったかも判らない。
今はすっかり彼女への想いはなくなったらしいけれど、未だにあの子の存在は現在の那智にも影響を与えていて。
彼がわざわざ嫌われるようなことをするのも、好かれることに怯えるのも、偏に彼女が原因なんだ。
那智にそれほどまで大きな影響を与えられる彼女に、わたしはいつまでも勝てはしない。