嫌われたがりと天邪鬼 完


あの時の、絶望感に塗れた掠れた那智の声は忘れられない。思わず訊き返せば、再度彼は「…振られた」と繰り返す。

詳しく聞き出そうと彼を問い詰めれば、粗雑に放られた携帯電話。それを開き、指定された彼女からのメールを見てみれば、そこには「もう別れよう」の文字があった。
そして次のメールには「ごめん、好きな人が出来た」と。

それでも諦められず那智はメールを送ったのだろう。最後のメールは「しつこいよ。鬱陶しいよ。だから嫌いになったんだよ」と、逆ギレとしか思えない内容だった。



「……だって、あんなに仲良かったじゃん」



切なさが胸から喉元まで上ってきて気道を塞いだような感覚。言葉すら上手く吐き出せなかった。
那智はわたしに背を向けて、決して顔をこちらに向けない。その背が僅かに震え、小さな嗚咽が漏れていることに気付いた。


――そして、それと同時にわたしの目からも涙が溢れた。そこで気付いたんだ、わたしは那智が好きなんだ、と。


急に気付いた自分の中の焦がれるほどの強い恋情と、その相手の嗚咽。何も言えず、わたしは彼と背中合わせになるようにしてしゃがみ込んだ。そして一緒に泣いた。それしか出来なかった。


「仁美(ひとみ)、仁美」と何度も繰り返される彼女の名前。わたしを呼ぶ時と明らかに違う、切なさと愛しさが入り混じった、聞いたこともないような声。

耳を塞ぎたくて、でも出来なくて、わたしはひたすら泣いた。



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