嫌われたがりと天邪鬼 完
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それからだ。那智が極端に『好かれる』ことに拒否反応を示すようになったのは。わたしに嫌がらせを繰り返すようになったのも。
田中さんへの想いは消えたようだけれど、それでもそれだけ彼女の存在は那智の中で色濃いものだ。
とてもじゃないけれど勝てない。勝てるはずもない。
那智はわたしを求めてくれる。田中さんと付き合う前よりずっと、わたしの存在が彼の中で大きなものになっているのは感じている。けれど。
彼が、あの時のように、甘さと切なさと愛しさと、人が他人に抱けるありったけの恋情を詰め込んだような、あんな声でわたしを呼ぶことはない。
「美由紀ー、お腹空いた」
…そしてやっぱり那智は、そんな脳天気な声でどうでもいいようなことを言うんだ。
彼の視線の先にはよく行くコンビニ。
仕方ないな、とため息をつき、「肉まん半分こだから」と一言呟く。