嫌われたがりと天邪鬼 完
「沢木さんと付き合ってるのー?」
「あ…いや、そういうわけじゃ…」
「ふうん。そっか、お似合いだと思うんだけどなあ。…あ、じゃあバイバイ!」
「うん、彼氏と仲良くね」
「ありがとー」
ひらひらと手を振り、女のわたしから見ても愛らしいと思える笑顔を浮かべた彼女は、彼氏と幸せそうに歩いていく。
那智はその背を見つめていて。
その横顔は夕陽に照らされ赤く染まる。…泣いているように見えた。
「…ごめん美由紀。食欲、なくなっちゃった」
「…うん。……帰ろっか」
それからの間はお互い無言だった。繋がれた手が離されることはなかったけれど、何故だか距離は開いたように思えて。
息苦しくて、コンクリートへと視線を落とす。影は長く長く伸びていた。
空が焼かれたように鮮やかで真っ赤な、いつもなら見惚れてしまうほど綺麗な夕焼けも、今のわたしには到底美しく思えない。早く日が暮れればいいのに、と声に出さず呟いた。
途中で擦れ違った、有名私立校の中等部の制服に身を包んだ、双子であろう顔のそっくりな男の子と女の子は仲良く手を繋いで幸せそうに会話を交わしていた。
中学生になってもそんなに仲がいいなんて珍しいなと思いつつ、視線はつい彼らの繋がれた手に向く。
大切な人と手を繋いでいるのは同じなのに、どうしてあの子たちはあんなにも幸せそうで、わたしたちはこんなにも苦しいんだろうと泣きたくなった。
家に着いた頃には日はすっかり暮れていて、わたしの庭に植えられた背の低い木の葉はすっかり闇を吸い込んで黒々としていた。
それが今の自分の心情と被る。そっと繋いでいた手は離された。