嫌われたがりと天邪鬼 完
ふんっと鼻を鳴らし、わたしは那智のベッドにダイブする。ぎしっとスプリングが悲鳴を上げたのは聞かぬ振りだ。
彼は「あー、濡れるー」と少し困ったような声を上げる。知るか、自業自得だ。そう開き直ることにする。
自分で持ち込んだ可愛らしい大きなテディベアを抱え込み、わたしはベッドの上に胡坐をかく。那智はそれを見て「女捨てすぎでしょ」と小さく笑い、自分は机に付属した椅子へと腰掛けた。煩いわい、とわたしはそれに噛みつく。
女らしさのかけらもない恰好だというのは自覚があるけれど楽なものは楽なんだ。
「那智の前で今更女取り繕ったって無駄でしょ?」
「学校ではそれなりに美人として人気あるのにー」
「だから学校ではおしとやかにしてるでしょうよ」
「彼氏出来たって、素がそれじゃあすぐに引かれちゃうと思うけど」
「それくらいで引くような器のちっちゃい男、こちらから願い下げよ」
「強いなー、男前」
クスクスと愉快そうに那智が笑う。
普段学校では滅多に笑わず、それ以前に誰かと会話をするところを見ることすら稀だというのに、素のコイツは実によく笑う。
しかし今日の彼の笑みには、おそらくわたしくらいにしか判らないであろう憂いが微かに混じっていた。あまりにも自然に溶け込みすぎていて、逆にそれが微笑を美しく見せる。ただ、彼がこんな笑みを見せるときは大体かなり追い詰められているか不安なのかどちらかで。
今日はそのどちらもが半々で混じり合った感じかなと検討をつけ、わたしはため息をついた。どうして幼馴染という間柄に過ぎないわたしがこんなにコイツのことを気にしてやらないといけないんだ。わたしはアンタの姉でもお母さんでもないんだけど。
とはいえ、こちらからつつかなければコイツが自分から切りだしたりすることは滅多なことでもない限りはあり得ないと知っていて、尚且つそれで更にストレスを溜めるタイプだということも長い付き合いからして理解している。そしてストレスを溜めすぎれば、元々身体も丈夫であるとは言い難い那智はすぐに体調を崩す。それじゃ何と言うか、寝覚めが悪い。
仕方ない。
テディベアには少し可哀想かと思いつつ、思い切りそれを那智に向かってぶん投げた。
「いてっ」…見事にそれはクリーンヒット。そこそこ大きめでしっかりした作りのそれは彼の顔面にヒットする。
ぶつけられた那智は少しだけ鼻を赤くしながら、何するの、と多少むっとした顔でこちらを見た。
「今日の那智気持ち悪い」
「美由紀、それってただの悪口だからね」
「だってそうなんだもん。…那智さあ、今日機嫌悪いでしょ」
「…別に、機嫌悪くなんてないよ?」
ふわっと、本当に学校生活での彼からは想像もつかないほど那智は優しく笑うけど。その笑みが作り笑いだと気付けないほど、わたしたちが一緒に過ごしてきた年月は浅くない。
ナメてンじゃないわよ、と内心で毒づいた。