嫌われたがりと天邪鬼 完
「っ、えっ!?」
「嗚呼図星ね」
「ちょっと待って何で知ってるの」
「何となくそうなのかなあとは思ってただけ。ふーん…でも美由紀が相川にねえ。確かにルックスはいいけど…どこがいいの?」
「…そんなの判んないし。気付いたら好きだったっていうか」
「少女漫画か」
思い切り突っ込まれ、だって事実なんだものと軽く膨れる。
彼女はへえーと興味深そうに声を上げた。
そして脚を組み替えた。一般より少し短めの彼女のスカートが一瞬かなり際どい位置になり、露出した脚の細さと白さに一瞬ドキリとする。
ささっと彼女はスカートを直し、そして「相川ねえ」と何かを含んだような意味深な口調で呟くと、ちらっと那智へと視線を向ける。
どうやらコンタクトは無事見つかったらしく、一週間前から彼はコンタクトに戻っていた。それが少しだけ残念だった、なんて。
「ま…でもアレね。厄介なのに惚れてるのね」
「否定出来ない」
「でも美由紀なら他にも…ま、ルックスは劣るとしても、中身がもっといいのが見つかると思うんだけどね」
まあ本人が好きなら仕方ないけど、なんて言う彼女はひょいっとわたしの飲んでいたレモンティーを奪い取り飲み干した。
非難の声を上げるも、「いいじゃないこれくらい。あと一口だったし」と悪びれない返事。
…その一口がどれほど大切か、と思ったものの、言ったって無駄なことは重々承知しているため口を噤む。どうせ彼女には敵わないのだ。
ため息をつきつつそのペットボトルを教室のペットボトル用のゴミ箱に投げ入れた時、後ろから「沢木!」と呼ばれた。
振り向くと、それは久世くんで。
「何?どうしたの?」
「や…その、さ、ちょっと話があるんだけど…っ」
顔を赤くして彼は言う。その様子から告白かと悟った。
周りの男子がひゅーひゅーと冷やかすその声が鬱陶しい。ハア、と息と吐く。
しかし彼はそれを自分に向けたものだと思ったらしく、「無理ならいい!」と急いでそんなことを言った。
違う違う、と誤解を正してから、「じゃあどっかでゆっくり話そう」と二人で教室を出た。
視線が背中に突き刺さる。その中に那智のものが混じっているのか振り返って確認したい気もしたけれど、ぐっと堪えた。
興味なさげにまた文庫本をめくっていたなら、傷付くのはわたしの方だ。