嫌われたがりと天邪鬼 完
「その、俺結構前から沢木のこと好きなんだ。付き合ってくれないかな」
真剣な目で、想定していた通りの台詞を言われた。
彼は那智ほどの美貌というわけでもないけれど、とても誠実な人だし、女子からの人気も高い。
どうしてわたしはこういう人を好きにならなかったんだろうと、一瞬ボンヤリと自分の世界に入りかけ、急いで引き返す。
「ええっと…」
「ごめんなさい」、その一言を彼に告げようと口を開いた時、視界の端に那智の姿がちらついた。
思わずそちらへと視線を向ければ、ここ中庭に通じる廊下に彼は佇んでこちらをじっと見ている。…どうして、ここにいるんだ。
穴が開きそうなほど那智を凝視していると、「…沢木?」と不安げな声で呼ばれ、そうだ自分は告白されていたんだと思い出す。何て失礼な奴なんだと自分で呆れた。
久世くんは今までわたしが視線を向けていた方を見て、「…ああ」とため息混じりにそう吐き出す。
まるで前々から察していた敗北に打ちのめされたかのように。
「…やっぱりかあ」
「…え、」
「あー、うん。…やっぱり勝てないのかなあ、って」
彼は痛々しく感じられる切ない笑みを無理矢理繕った。…失恋を予期したかのようだった。