嫌われたがりと天邪鬼 完





結局那智に連れられた場所は屋上。…に、行くための階段の、一番上。
屋上だとばかり思っていたのだけれど、やはり昨今の危機意識からかそこはしっかりと施錠されていた。

だから屋上の扉の前という、何だか少しおかしな場所に、二人で並ぶ。扉に背中を預けて。



「…告白だったんでしょ?」



口を開いたのは那智が先だった。うん、と消え入りそうに小さな声で答えてから頷く。そっか、と自分で訊いたくせに、那智はそう言っただけだった。

…どうしてあそこにいたの、と訊きたいのに、言葉がつっかえて出てこない。



「オーケーしたの?アイツ、結構人気あるじゃん」

「…ッ、するわけないでしょ!?」



カッとなって噛み付くような勢いで反駁すれば、那智は目を丸くした。そしてごめん、と素直に謝る。
あ゛ー、と声を上げ、彼は少し寝癖のついた髪の毛をワシャワシャと自分で掻き回した。そのいきなりの反応に驚いて、ビクッと身体が小さく震える。

そして頭を抱え込んだまま、那智はズルズルと屋上の扉に背を凭れさせたまましゃがみ込んだ。その姿はどことなく幼さを感じさせる。

彼の目の前に立ち、わたしは中腰の姿勢でどうしたのと彼に問い掛けた。半ば5歳児を相手にしているような気分にすらなる。那智はその声に少しだけ顔を上げ、上目遣いにわたしを見上げた。
その視線にはどこか縋るような、そんな感情が見え隠れしていたような気がして、一瞬息が出来なくなる。幼い、だなんて錯覚だったらしい。

視線が絡み合ったまま、一瞬の沈黙が訪れる。
「…あのさ、」と、その沈黙を破ったのはわたしだった。



「…一つ、訊いてもいい?」

「うん、何?」



すっと息を吸い込む。ゴクリ、と口内に溜まっていた唾液を飲み込んで、わたしは再び那智と視線を絡ませる。

色素の薄いくせして、どこか深い色を秘めるその瞳はあまりにも美しく、吸い込まれそうになった。



「………どうして、あそこにいたの?」



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