嫌われたがりと天邪鬼 完



全身が心臓になったかのようにドクドクとやかましく鳴っている。変な汗まで出てきた。
――どうか、お願い。

幼馴染みでも姉貴分でもいい、なんてそんなの嘘だ。自分を納得させるための、那智に想いを拒否された時のための綺麗事で、本当は。本当に、わたしが求めている『特別』っていうのは。

あんな切なく甘い声で名前を呼んで貰えるような。愛しさを凝縮したような目で見て貰えるような。
君に、世界の誰より好きだと思って貰えるような。そんな『特別』がいい。

『恋人』という意味での『特別』になりたい。


そんな想いが伝わるようにとありったけの勇気を絞り出して放った台詞に、那智は少し困ったように微笑した。そして軽く俯く。



「…ずっと、違うと思ってたんだ」



息を吐くようにして言った那智のその声に、一文字でも聞き漏らすまいと、わたしは意識を全て聴覚に集中させる。

ボソリ、ボソリと呟かれる那智の声は、微かに震えているようだった。



「美由紀は、違うって。そういう対象じゃ、ないって。…思いたかったんだ、そういう風に。
 
 きっと……美由紀と付き合ったりして、それで別れたら…もうたぶん、誰も信用出来ないだろうから」

「………うん」

「でも…この間、キスされて、本当に嬉しくて、ドキドキして、その日眠れなくてさ。だけど知らん振りしようとした。気付いたけど、気付いてない振りしようとして」

「………」

「だけど、さっき美由紀が呼び出された時、…正直すごい焦った。あれで美由紀がアイツのものになっちゃったらどうしよう、って。絶対そんなの嫌だって。

 …だからもう誤魔化せないって判ったから。だけど、告白の邪魔するわけにもいかないじゃん。久世…だっけ、アイツは、僕が出せなかった勇気を振り絞って美由紀にぶつかりに行ったんだから。

 で、結局、あそこにいた」

「…うん」

「………さっき、美由紀に『するわけないでしょ』って怒鳴られて…ほんと、安心した」

「…うん」

「…美由紀」



僕と、付き合ってくれませんか。
いつになく弱気なその声に、涙腺は崩壊した。

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