嫌われたがりと天邪鬼 完



視界が歪んで見えない。胸がいっぱいだった。――叶わないと思ってた。『彼女』という特別にはなれないと思っていた。
それなのに。

え!?と慌てる那智の声が聞こえる。



「え、ちょ、美由紀泣かないでよ…泣かれるとどうしたらいいか、」

「……っ、な、まえ…っ」

「え?」

「よ、ん…で、名前…!」



そう言うと、一瞬の間が空き、そして、「美由紀」と。
あの日の那智の田中さんの名を呼ぶあの声から切なさを除いて、更に甘さと愛しさをプラスしたような、そんな声で。
わたしがずっと求め続けた声で那智がわたしを呼ぶ。更に涙が溢れた。

美由紀、美由紀、美由紀。
ずっとエンドレスで那智はわたしの名前を呼ぶ。そっと抱き寄せられた。



「美由紀」

「なち…っ」

「…うん。好きだよ、美由紀」

「わたしも、わたしもね、」



那智が、好き。
嗚咽混じりにそう伝えれば、嬉しげに「うん」と彼は言って、そしてそっと唇を塞がれる。

柔らかな感触が、角度を変えて何度も何度も降ってくる。愛しさが唇を通して伝わるように思えた。
二度目の好きな人とのキスは、涙の味がした。



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